小野正文さんの“入門太宰治”は“太宰治をどう読むか”の後の著書であり、
若い人たち向けに書き下ろした文章で、私にでもとても分かりやすい入門書です。

入門太宰6_600

“太宰治の人間と生涯”では、
生い立ち、津軽と「津軽」、時代の流れ、その人間像、生と死の間の区分けで、
作品を引き出して、人間津島修治が太宰作品に与える影響っていうか、太宰文学の基盤となる条件や要素を照らし合わせています。
太宰論は多くあるようですが、小野さんの著書となると教科書的になります。

気になった部分を引き出すと、
生い立ち
 生家を誇る気持ちと卑下する気持ちと二重に持ち、彼の性格にも明暗二様に投影する。

津軽と「津軽」
 風土記として依頼され書かれたものだが、風景に対する感心は大ざっぱで、時々風景論を展開するだけで、彼の目は主として人間にそそがれていました。それも一般的な人情風俗を描写するというよりも、個人的に親交のあるある人たちを歴訪してその人たちの中に津軽人の持つ特質やタイプを発見し、そして、自分自身も津軽人であるという共通の宿命を再確認しようとしたのが「津軽」執筆の目標であったとみることができる。
 風土記というよりは、“旅日記”というほうが適当だろうと思います。
 凶作地帯で農民たちの生活は低くて暗い土地で、大地主であることを単に誇りとするには太宰はあまりにも痛みやすい神経の持ち主、むしろ負い目を感じていた。彼は農民たちの心からの見方であり身近な友としての好意をいだきつづけました。
 「津軽」によって津軽を知り、そして、津軽人として太宰を知る。「津軽」を読まなければ真実の津軽を語ることが出来ないのではないかとさえ思われます。

時代の流れ
 太宰が津軽人であったというだけでその文学が育つわけがなく、彼の人間と文学に大きな影響力を持ったのは暦の流れであり時代の爪跡であったと思います。
  彼自信の人格を最も深い内部から揺り動かしたのは敗戦でした。
彼は幼年期からすでに文章の才能が有り文学志向は見られますが、明確に師を求めて修行に励むという態度ではなく、彼自身が蚕のような激しさで、青い桑の葉をむしばみ、自らまゆをつくり、その中にとじこもって独自の世界を形成したということが出来ます。
 彼には文学上いろいろな流派や技法を取り入れることは、しようと思えば出来る、たやすいことでしたが、あえてそのような模倣をしません。
 そのためにも彼の文学を、文学史的にどのように位置づけるかが困難な課題であります。
 大きな歴史の流れからみれば、彼に与えられるべき椅子の位置は、きっとはっきりしてくると思います。彼でなければ占めることの出来ない、かけがえのない文学史の空白をみたすことが、彼の使命だと思いますから。

その人間像
 太宰という作家は特異な性格の持つ主であったことは確かです。しかし、他の作家とくらべてどのように違っていたかといえば、決して特別な変わり者ではなかったのです。
 それは、質的な差異というよりは、量的な差異といったほうがいいでしょう。
 一つは、津軽人気質
 もう一つは、躁鬱質気質
  太宰は人柄としては社交的で明るい一面を持っている。独りでは憂鬱な「フサギンボ」。精神分裂質の人間ではなく、はしゃぐ状態とふさぐ状態とを持った躁鬱質の人間。
 更に、文人気質
 複合的性格が、太宰の人間像を形づくる重要な要素であったと思います。しかし、これらの要素がどのような割合で組み合わされているのか、何がどの程度先天的なものか、または後天的なものかはなかなか複雑な問題であります。

 三つの気質の交錯する光と影のコントラストは結局太宰の生と死に対する姿勢となって示され、その生と死のふたつの世界にかけられた橋として、いわば虹のごとく妖しい美しさを放っているのが太宰文学の特質であるといってもいいのではないかと思います。

生と死の間
 人間にとって“生”は肯定を意味しているのに、太宰の場合は“生”が否定で“死”が肯定であります。彼の創作は死の側から生と、影の中から光を描くという、いわばレンブラントの描く逆行線が彼の作品に深い陰影を与えるのです。
 彼を死に導いた誘因は性格の弱さであるとするのは正しいと思います。
 彼がどうしても死なねばならぬと自分自身に言いきかせていたと思われる理由があったとしても、それは人を納得させる必然性が薄弱であったと思われます。太宰文学は決して他人に自殺をすすめてませんし、むしろ、そういう馬鹿げたことはやめてほしいと呼びかけています。

ということなど、小野さんの太宰におもうエネルギーが太宰へ導いてくれます。

次の章の“太宰治の文学と作品”は後日でも。


そして、今朝の岩木山です。
岩木山2-8_600


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